情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2020年3月1日

「キスがしたい」と彼に耳打ちをした。彼は「それは困りましたねえ」と笑って言った。ここは彼の家のリビングで、私たち以外にも人がいるからキスはできない。キスができなくても私は彼と二人で話していることが幸せだった。みんながいる中で、キスがしたい気持ちをこっそりと打ち明けて、二人だけの秘密の暖かい時間を共有できたらよかった。すごく幸せだった。

けど、彼はその後すぐに他の人に交じってゲームを始めたのだった。あー、と声が漏れそうになる。プレゼントを渡す相手が遠くに行ってしまって、手に持っているプレゼントをどうしていいか分からず混乱した。渡したと思っていたのに、どうやら私の気持ちは受け取られていなかったのだ。
キスがしたい女を置いてゲームができるのかとちょっと怒る。私だけ舞い上がってたと反省する。最後にひとりぽっちにされて寂しく思う。

確かに私は自分で持ってきた本を読んでいて、彼と喋らない時間もあったけど、隣にいてほしかった。同じ時間を共有したかった。幸せな気持ちが一気に引いて、胸の中がざらざらし始める。

あまりに悲しくて、彼じゃない人が私の隣に座ったら、その人にキスをしようと思った。誰も来なかったけど。
泣きたかったけれど我慢した。大人だから我慢ができる。その場で喚いて怒りたかった。我慢した。ゲームをしている彼の胸倉を掴んで無理やりキスをしたかった。だけど、我慢した。自分の感情よりも場の空気を乱さないことを選べてしまう。大人だから。私は本当に大人になりたくない。
少ししたらまた隣に戻ってくるだろうと、本に書かれた言葉を撫でて心を鎮めようとしても、どんどん悲しみに襲われて耐えられなかった。
「これが私の独占欲(支配欲)か」とどこか冷静な自分が自分を分析していた。
私は、彼が私に夢中であってほしかった。私が彼に夢中であるのと同等の熱量で、私の隣にいたいと思ってほしかった。その彼はゲームをやりながらみんなと一緒に笑っている。
好きな人形でおままごとをしていたはずなのに、人形は勝手に私のおままごとの世界を抜けて、違う人とおままごとをはじめてしまったような、そういう子どものような不愉快さ。彼と同じ思いになれたと勘違いして、私は孤独だったと知る。

私が泣きそうになりながら本を読んでいる間も、彼はみんなと一緒にゲームをして楽しそうで、私なんかと一緒にいるときより楽しそうで、私はみんなと違って一緒に住んでいないからわざわざ会いに来ないと会えないわけで、それなのに、とか、心の中で愚痴が止まらなくてリビングに居られなくなり、黙って彼の部屋に逃げ込んで、彼の布団に包まって泣いた。
構ってもらえなくていじけてしまったみたいで恥ずかしかった。自分が幼稚だと思う。
狭い部屋で二人で肩を並べて座って、外に出る扉の鍵を締めて、鍵は飲み込んで、もう二度と外に出られない、二人きりで誰にも何にも邪魔されずに時が過ぎていくのを楽しむ、彼の布団の中でそんな妄想をした。
私は少しのことでもすごく楽しくなれる。ちょっとのことでもすごく悲しくなってしまう。感情の起伏が激しいねえと彼に言われる。

今日のことはもう彼に不満を打ち明けて、ごめんねって言ったり言ってもらったりしたけどまだモヤモヤとしていて、悲しい。私はどうしようもない。