情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2022年2月19日

こんばんは、今日は良いことがありました。

昨年からずっと観たいと思い続けていた『ドライブ・マイ・カー』をようやく鑑賞しました!本当に嬉しかった。映画館が長期間、上映を続けてくれて助かりました。公開当時、私はコロナに感染していて、隔離期間が終わっても人混みが怖くて映画館になかなか行けず、気づいたら年を越してしまって観に行く機会を失っていたのですが、恋人が週末に観に行こうと誘ってくれたから観られました。いつもありがとう。

 

『ドライブ・マイ・カー』を観に行きたかったのは、村上春樹ファン、西島秀俊ファンだからではなく、監督の濱口竜介さんの作品が好きだからでした。実は濱口監督を教えてくれたのも恋人でした。いつもありがとう(2)~。(軽いな)『親密さ』『ハッピーアワー』を観て、濱口監督の作品に惚れました。新作が出る、しかも主演は西島秀俊だと聞いて、傑作になること間違いない!!と思ってずーっと観たかったのです。

濱口監督の映画はすごく特徴的、独創的です。多分よく言われるのは「長い」こと。今作は約3時間の上映時間あります。他の作品も3時間越えが多いです。でも、決して冗長ではありません。鑑賞したことがある人は分かると思いますが、あっという間に過ぎ去っていく。なんというか、それが濱口監督のマジックのように思えます。ど派手で手に汗握るアクションシーンなんてものは無く、常に画面は静かで長い台詞や、些細なエピソードが積み重ねられる。その結果、演者、キャラクター、そして観客の心を動かす、言葉にならない「何か」を表現する。独創的とは言っても、奇抜なことをしているわけではないと思います。映画や物語のセオリーに忠実に、そしてキャラクターを生かすための表現を丁寧に緻密に作り上げていくからこそ、観客の心を動かすわけです。今の邦画界(いや、世界の映画界!)では唯一無二の監督だと思います。

 

『ドライブ・マイ・カー』、もう私にとっては素晴らしい映画でした。2022年、始まったばかりですが、今年1番の映画になりそうです。
もう公開されて半年も経つので、粗筋を書くこともないかもしれないですが、自分のために記載しておきます。
舞台俳優であり、演出家である家福(西島秀俊)は愛する妻の音(霧島れいか)の浮気を知りながら、知らないふりを続ける。ある日、帰宅すると音がリビングで倒れており、くも膜下出血で亡くなる。2年が経ち、家福は広島の演劇祭にて『ワーニャ伯父さん』を演出することになる。そこで寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)を紹介される。オーディションには音と肉体関係があったであろう俳優の高槻(岡田将生)が来て、家福はワーニャ役として採用する。家福は劇の準備、高槻やみさきとの対話を通して、自分自身の傷の気づいていく。

まず、書きたいのは岡田将生の演技が素晴らしかったこと。彼はTVドラマだと笑顔が素敵な爽やか青年の役が多いように思いますが、本作では自分をコントロールできない未熟な若者として描かれています。すぐにキレる、女性関係にだらしない。そういう考えるより先に体が動いてしまう、常に感情が激化しやすい男性の表情や雰囲気を岡田将生が最高に演じきっていて、岡田将生の本領発揮を見たように思います。特に家福の車の中で高槻が音について語る長い長い台詞、これが素晴らしかった。ずっと高槻の顔がアップで映し出され、時折家福の顔が映される、暗い映像で、悪く言えばつまらない映像なんですが、とくとくと語る高槻の声がすごく気持ちよくて引き込まれる。何がか変わっていくような予感を感じさせる。そして、台詞が「音」として心地よい。人の言葉が「音」として聞こえるのは本当に聞き手に、言葉の意味を超えた「何か」が届いた証だと私は思うので、ここの演技はきっとずっと忘れないと思います。ストーリー上でも、高槻の台詞によって家福は固く閉じていた自分の心を動かしていきます。

次に、家福とみさきの北海道への道中について。彼らはそれぞれに過去の深い傷を背負っており、車内で自分の罪を告白する。客観的に見れば、彼らのそれは罪ではなく、事故としか言えないどうしようもなかった問題だ。しかし、当事者にとっては間違いなく自分の過失、罪になる。このようなことを私も当事者として経験した覚えがあり、彼らの告白をまるで自分のことのように胸を痛めて聞いた。この罪と傷、苦しみを抱えながらも、彼らは生き続けなくてはいけない。彼らの人生が『ワーニャ伯父さん』の主題と重なって昇華される劇中劇の韓国手話を用いたソーニャの台詞には涙が自然と溢れてしまいました。
傷から目をそらさずに見つめること、そして癒しを与えること。この作りが本作は人間への愛によって優しいタッチで構築されており、観客にもある種の癒しを与えるのではないかと思いました。そう、濱口監督作品はすごく人を愛しているのが伝わってきて、良いのよね。

 

多面的な魅力を持つ作品なので、語りたいことは尽きませんがこんなところで締めたいと思います。読んでくれてありがとう。良ければ『ドライブ・マイ・カー』観てね~。