情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2022年1月30日

今日は1日家に居ました。本当は1週間分の食糧をスーパーへ買いに行かなければいけなかったのですが、気分が乗らなかったので中止しました。お味噌汁を作るためのお味噌が足りなかったのですが、生姜を入れて誤魔化しました。味噌風味のしょうが汁になりました。こういうとき、恋人の味覚があまり発達していないことに感謝しています。これは笑うところです。

 

ずっと読もうと思っていた本をkindleで読みました。北村紗衣『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く 』です。(以下、『批評教室』と記載します。)著者はsaebouの愛称でツイッターで何かと話題の批評家ですが、私は彼女の『お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』を読んで以来、彼女の書いたものに興味があり、ブログや本を読むようにしています。

 

『批評教室』は小説や映画、舞台などの芸術作品を批評しながら楽しむ方法について初心者向けに書かれた新書です。批評方法の入門書ですね。前回のブログで「ひとり読書会をやるぞ」と書いたので、まず作品の読み方を学ぼうと読んでみました。私って真面目なんです。

私が北村さんの著作を好む理由はいくつかあります。まず何より膨大な知識量です。彼女の専門はシェイクスピアを中心にした劇だと思うのですが、専門を超えて多くの作品に触れています。本著でも『ミッドサマー』や『テネット』のような最近の映画から、タイトルの元ネタであるモハメドアリ(「俺はチョウのように舞い、ハチのように刺す」という有名な決まり文句だとのこと。)の言葉まで幅広い引用をしており、知識に裏付けられた作品の読みにワクワクして読み進めることができます。
次に、語り口が軽快であることです。ここ最近の北村さんのツイッターは、詳しいことは知らないのですが、かなり攻撃的な印象が強いです。ですが、このような状況下でない著者のツイッターはフットワークが軽く、彼女の自由な言葉で綴られます。その軽やかさが本の中でも発揮されており、読みやすく親しみやすい。「わかりやすい」というのとも違います。理路整然としており、大衆に迎合しない姿勢がよく出ています。たぶん、彼女の性格が彼女の文章から見えるのが好きになった理由ですね。出版を含め、多くの活動をしており、女性としても現在注目すべき人物なのではないかと思っているのですが、皆さんはどう思いますか。

→北村さんインタビュー記事がとても良かったので気になる方はこちらをチェックです!

dontoverlookharassment.tokyo

 

さて、『批評教室』で語られる批評の方法について軽く紹介したいと思います。

批評をする際のステップが大きく3つあるとプロローグで書かれます。第一段階は「精読」、第二段階は「分析」、第三段階は「アウトプット」。本著ではそれぞれの段階について順番に説明がされています。

私は大学時代、日本文学科に属しており、ある小説をテーマに卒論を書きました。ですから少なからずは作品を精読・分析・アウトプットの流れを理解しているつもりではあります。映画を観る際も、主人公がなぜこのような行動を取るに至ったのか、映画内で多様される「緑色」はどんな意味があるのか、と言った視点を自然に持てる方だとは思います。
それでも本著を読んで、批評をする際の落とし穴について知ることができました。「自分には邪な性欲があることを自覚しよう」という節では、自分の性的な嗜好によって作品を観る目にバイアスがかかり、批評に影響が出る場合があると指摘しています。それを防ぐためには自分自身の嗜好を理解して把握しておく必要があります。
最近の私は、まあ趣味でやっていることなので、漠然と好き嫌いで作品を見がちです。『燃ゆる女の肖像』を観たとき、私の評価は「どちらかというと良くない」でした。これはかなり自分の嗜好のバイアスがかかった評価です。世間での評判がかなり良い映画であり、ファンも多くいるかと思います。実際に、好き嫌いを置いて冷静な目で映画を鑑賞すると、素晴らしい映画であることがわかります。主役の二人の女性の感情の動きが美しく表現され、二人の儚い恋の季節を丁寧に描いています。特に女性の方にはオススメしたい映画です。私が自分の嗜好だけで批評をしたら、出来の悪い感想文になったであろうと思います。とはいえ、決して自分の嗜好に従うことが悪いというわけでもありません。せっかくの批評の場で、自分の意見が言えなければ意味がありませんから、私が『燃ゆるの肖像』をもし批評するのであれば、映画としての出来を評価しつつも、物語の結末についてどういった理由で好みではなかったことを書くべきだと思いました。

この節の例として『スターウォーズ』のキャラクター、ベン・ソロ/カイロ・レンが挙げられていました。カイロレンを演じたのはアダムドライヴァー。私はアダムドライヴァーが好きで、彼の映画はついチェックしてしまいます。だって、かっこいいから。。。映画批評家スコット・メンデルソンがツイッター上で「もしこの役を演じたのがアダム・ドライヴァーほど美男じゃなかったとしたら、ベン・ソロの「贖罪」に入れ込んでる人たちは同じくらいこだわってましたかね?」と発言したそうで、アダムドライヴァーは演技派であれど美男ではないので的外れだという趣旨の突っ込みをされたらしいと本著でエピソード紹介がされていますが、私にとってはギクリとした指摘です。歴代スターウォーズで一番好きなキャラはアナキンスカイウォーカーだったのですが(みんなも好きでしょ)、それを抑えてカイロ・レンが好きになってしまった理由の大半はアダムドライヴァーが演じていたためです。これは大きなバイアスだったと思いました。

 

他にも改めて作品を向かい合う際の注意事項・ポイントを理解することができて、とてもためになりました。楽しい読書体験となり、ちょっと参考にしながらひとり読書会の準備をしていこうかなと思います。


私は批評方法を知りたくて読みましたが、本著では批評が持つコミュニケーションの側面についても書かれています。現在、SNSでみんながこぞって作品の感想を書いてはバズっています。多分、現在はこれまでの歴史上もっとも、一般人の言葉が大勢の人に見られる機会が多い時代ではないかと感じます。この時代の良いことも悪いこともこのブログを読んでいる人にはすでにご存じなのではないでしょうか。私が気にしているのは「バズる」ことを目的とした構文を用いての感想ツイートです。みんなが同じような感想になってしまい、なんだか面白くありません。(脱線しますが、私はツイッターのバズりレシピ・バズり料理の類が好きではありません!大体において、そんな過激に表現するほど美味しくないからです!!たいへん怒っています、笑)
まあ、ですから、大真面目に批評で食っていくぜ!みたいな人でない、SNSでちょっとした感想を書きたいけど何を書いたらいいのか分からないって人にも『批評教室』はオススメです。自分の好きなものや、逆に好きでなかったものについて語り、誰かからのコメントによって違った視点を得られるのは素晴らしい経験ですからね。

 

今回はまっとうなブログらしいブログ記事になりました。時にはこういう日も良いですね。皆さん、1月最終日も元気でお過ごしください。