情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2017年12月10日

 学校での用事を済ませ、書店へ向かった。外は演説だかデモだが分からないが拡声器で音が割れた男の怒鳴り声が聞こえる。パトカーのサイレンも響き渡り騒々しい。
 最近節約をしていたため、本を購入していなかった。今日は本を買いたい気分だった。何でもいい、書店の本棚を眺めて欲しかったものか気になるものを選ぶ。まず雑誌の棚へ行く。「公募ガイド」を手に取る。文章書いて評価されればお小遣いが貰えるということに先週気付いた。そして世の中にはいろんな種類の文章を求めている人がいる。どこかに私の言葉も必要とされるといいな。どんどん賞金稼ぎをしてやろうと思う。次に文芸雑誌を一通り見る。現在どんな文章を書く人間がいるのか、どんな本が受けているのか調査しようと思い、ひとつ欲しかったのだが、想像以上に文芸雑誌が刊行されており選びあぐねる。(おすすめがあったら教えてください)あと単純にちょっと高い。貧乏学生には複数買えない。
 Web小説(詩・短歌)投稿サイトでも思ったことだ。いろんなものが増え過ぎて外野はよく分からない。実際に読んで判断するべきなのだろうが、読む作業は面倒臭い。絵を見るよりうんと面倒臭い!文芸が流行らない理由はこの面倒臭さにあると思う。文章を読むことはただでさえ面倒臭いのに、雑誌やサイトがたくさんあって何を読んだらいいのか分からない。面倒臭い。どうにかならないものか。ちなみに私が星空文庫を利用している理由は、星空文庫は作品の倉庫であり、SNSではないからだ。SNSと作品置き場が一体化しているサイト、いいねを押したり他人の作品に感想を書いてポイント貯めたり、そういうのを煩わしいと感じてしまう。多くの人は目に見える読者の存在が必要なのだろうな。
 単行本の棚を見る。小説がほしい。が、やはりここでも迷子になってしまった。何を読んだらいいのかよく分からず、題名から惹かれるものもなく、今日は運命の出会いはないかなと諦め始める。そしたら『回転ドアは、順番に』を発見。欲しかったやつだ!と棚から取ると、ピンクのカバーに「あなたは今日、誰と恋に落ちますか?」というコピーが赤字で書かれていた。思わず「ださい」と呟いてしまう。どの層に向けたカバーなんだろうか。分からない。この仕様のせいで購入を辞める人もいるだろうと少し思いながらも、短歌好きは東直子×穂村弘というだけで買うからこれでいいのかなとも思う。少女マンガが好きで恋愛モノしか読まない女性には響くのかもしれない。『方丈記』は講義で使うため。20代を超えてようやく日本の古典作品の魅力に気付いた。もっと早く知りたかったな。古典も少しずつ読んでいきたい。できれば漢詩も……。
 近くのコーヒーショップに入り、さっそく購入したものを開く。「公募ガイド」には文芸雑誌の新人賞などの応募要項も記載されていた。4万字。これはおおよその最低ラインだと思われる。私にとっては途方もない数だ。4万字も今まで書いたことがない。100を超えた私のブログ記事を集めれば4万字を確実に満たすはずだ。だが、ひとつの物語を描くとなるとうまく想像できない。私には書けるのだろうか。ここまで考えて私はひとり赤面する。何を考えているのだろう。別に小説家にになりたいわけではない。根本的に野心が欠落している。書いたところで何年も真面目に勉強されている方には確実に劣るわけで、だったら公募送ってお小遣いを狙っていく方が性に合っているかな。思考が逃げる。逃げる。私はだんごむし意気地なし。言い訳がほしい状態なのだと思う。最低。
 『回転ドアは、順番に』をざっと読む。気になる短歌、気になる言葉が次々に現れる。でもやっぱり私は「隕石で手をあたためていましたがこぼれてしまうこれはなんなの」「隕石のひかりまみれの手で抱けばきみはささやくこれはなんなの」が好きだなあ。これはなんなの。これはなんなの。これはなんなの。ってぐるぐる駆け巡る。そうなの、よくわからないの。こぼれていく、ひかりまみれのこれはなんなの。あと「俺の熱 俺のうわごと 俺の夢 サンダーバード全機不時着」も好きだな。かわいい。
 この短歌集はメールを送り合うことで作られたとか。私は深く納得した。皆さんは気になる人、恋人とメールでやりとりしたことがありますか?LINEのような事務的な連絡や上っ面のペッティングではない、言葉と言葉が絡み合う経験をしたことがありますか?あれはどんな肉体的接触よりも甘美で危険です。相手の感情が語と語の隙間から熱を持って伝わってくる。私の中がかき混ぜられる。言葉によって変形していく。生まれた化学反応をまた言葉にして送る。その繰り返しで、相手の感覚が急速に自分の身体に吸収されて、見る見る二人の関係を加速させてしまう。文字が並んでいるだけなのにくすぐったい場所を触られているような、でも嫌じゃない、気持ち良い、そんなメール。『回転ドアは、順番に』がこんなにも官能的で読み手の気持ちを弄ぶのはメールの中に生まれる淫靡な空気が鮮度を保って存在しているからだろうな。何度でも読み返したい好きな本が増えて嬉しい。
 余談。友だちに興奮気味に「この短歌集読んでみて!」と手渡したら「うーん、馴染みの無いかんじ……」とむぐむぐ言われたので世間の声はそんなものですわなと思いました。やっぱり文学は面倒臭いんだよ!!
 
 18時半。新宿で友だちと待ち合わせて映画館へ行く。ずっと気になっていた『パーティで女の子に話しかけるには』を観た。もう、最高。最高だ。大好き!何度でも観たい。とにかくザン役エル・ファニングが可愛い。宇宙の宝。私も彼女に口の中にゲロかけられたい。エンとザンがステージで「eat me alive」を歌うシーンでテンション上がって私も映画の中に入って飛び跳ねたりシャウトしたりしたかった!音楽と映像が超クールで頭クラクラになれるし、二人がデートするシーンは胸のときめきが止まらないし、パンクvs宇宙人の構図は意味不明で激アツ。観終わった後にすごく元気になれる映画だった。私はパンク音楽については何も知らないけれど、映画で使われた曲はどれも好きだったな。パンフレットの中に「パンク入門」のコーナーがあるので、そこで紹介されている曲を聞いてみたいと思った。ニコールキッドマンが演じるボディシーアがパンクのことを「ブルースの最終形態」と答えた台詞が印象的だった。
 
 明日も映画を観に行くらしい。映画ばかり観てないで本も読まねば。今は永井荷風せんせーの本を読んでいる最中。2018年は読書強化月間にする。どうせ卒論書かないといけないから死ぬほど本読まなきゃいけないのだけども。今読みたい本はウェゲナー『大陸と海洋の起源』1915年に大陸移動説を唱えた本。大陸が移動していることは今では当たり前に知られているけれど大陸が動く原動力・メカニズムが理解されたのは割と最近、戦後のことらしい。ウェゲナーが生きていた頃は、大陸が動くなんて発想がまず変な奴だと思われるに違いない。気候学者であるウェゲナーが丁寧にデータを集めて移動説を唱えたものの、メカニズムが分からないために夢物語だと言われていたようだ。世界の常識を覆す主張は胸が躍る。17世紀、科学革命の話も楽しいよね。世の中には私の知らない偉大なる発見者がいる、その冒険譚を知るのが大好きなんだ。最近だと大野晋『日本語の源流を求めて』を読んでどきどきした。いや、正直言って彼の説がどこまで正当性があるか疑いの余地は十分にあるのだが主張としてかなり面白い。日本語がどこから来たのかについて興味がある人はぜひ。でも他の同系統の本も一緒に読んだ方がよい。

 はい、これで3200字。余談もありつつ、日記終わり。よく読み、よく書き、よく観て、よく聞き、よく考えていきましょう!おしまい。