情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2018年11月12日

今日は頭が痛い。ずっと寝ていたい。子どもがぬかるんだ道にぽてりぽてりと小さな足跡を作っている。田んぼの稲穂はまだ青く、昨晩の雨で貯めた露を輝かす。親のぬくもりを信じている柔らかな手が触れる雨だった水滴を舐め取るのは晩夏の雲。駆け足で遠くの大地へ消えていく。子どもは何も考えない。冷たい水と蛙の鳴き声、まどろんだ太陽と増える足跡。耳たぶの記憶が私をくすぐる。母親が子どもを呼んだが、子どもは一人だったので返事をしなかった。水路に腰まで浸かった男性を見つけた。彼は泥まみれになった作業着を洗っているのだと言う。首元に這う指に力が入る瞬間の彼の表情は自動販売機の前でジュースを選んでいるのと変わらない。子どもにとって、水路はザリガニの住処だ。割り箸にタコ糸を括りつけて、餌に裂きイカをつける。子どもにはかつて友だちがいた。今はひとりで入水する男を見つめている。背中まで黒く汚れて、ゴミ収集車と同じ嫌な匂いがする。「ザリガニが死んだときの匂い、知ってる?」。頭がくらりとする。一日履いたパンツ。文房具屋さんと本屋さんが隣合っている。万引きが酷くてペン売り場がレジの前に移動した。子どもは歩くときに目をつぶる。5年も同じ道を歩いている。子どもは飽きていた。新しい景色を描こうとするのに、頭が痛くて叶わなかった。温くて甘い声を聞きたい。