情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2020年3月2日

彼の白い肌にはナメクジがよく似合った。
ぬめぬめとした粘液の跡を残して彼の体を自由に動くナメクジ、ナメクジが体を這うたびに彼はくすぐったそうにお腹の真ん中あたりをびくびくとさせる。気持ちが悪いよ、寒いよ、もうやめようと彼はしきりに私に訴えたがすべて無視した。彼はナメクジが触れないから払い除けることもできず、苦しげにびくびくとして横たわっていた。ナメクジが彼の鎖骨を登り、首、そして頬にまで触手を伸ばした、彼は体を硬直させて弱々しく叫ぶ。私に助けを求める。もうすぐナメクジは彼の唇へ触れようとする。私は体の奥が官能に満ちてじわっと熱く火照った。

☆☆☆

雨の日の帰り道に時折ナメクジと遭遇する。彼の傘に入れてもらい、腕を組んで歩いているとナメクジが私たちを見つめているのである。彼はナメクジを強く嫌悪していた。ナメクジの造形が気に入らないのだという。カタツムリは可愛い、ナメクジは気持ち悪い。彼の中ではそういう区分がなされていた。私はナメクジなどどうでもよく、ナメクジを「気持ち悪い」と言う彼の表情や声に魅了されていた。私はこの雨の中、場違いなほどに欲情にしてしまったのだ。彼は心底嫌いなものへ、このような顔をするのか。初めて知る彼の一面にナメクジに嫉妬するほどであった。

その日から、彼の裸体をよく見るようになった。彼の体はほっそりとしてどこか女性的な曲線を持つ美しい体だった。大好きな体。ずっと触れていたい。そう、ここのあばらのラインに彼の大嫌いなナメクジがいたら、きっともっと美しいに違いなかった。自分の指をナメクジに見立てて、彼の腹部を撫でる。

吐息が漏れる。濡れる。欲する。……足りない。

☆☆☆

ナメクジを彼の顔から降ろしてあげた。彼は今にも泣きそうに怯えた表情をしていた。私を恨めしそうに睨んだ。私はごめんねと彼に謝って、お詫びに手に持っていたナメクジをその場で握りつぶした。彼は悲鳴をあげた。ナメクジだった何かが私の手のひらにべっとりとこびりついて、異臭を放つ。彼の私の見る目が気持ちよかった。彼は明らかに私を軽蔑していた。鋭い視線がとてもとても気持ちよかったから、私は手のひらについたナメクジを彼の体に塗ってあげた。彼は怒り狂って、初めて私のことを強く殴った。我を忘れて殴った。口の中が鉄の味になり、目の前がちかちかとして、私はそのまま倒れて意識が飛んだ。

☆☆☆

彼が私の顔面を力任せに殴るから、私の自慢の高い鼻はもう二度とまっすぐにはならないらしい。彼が何を言ったのか知らないけれど、腫物を触るように医者は私と話した。看護師は私と目をあわせようともしない。なぜか二度と彼と会うことはできないらしい。

外は雨が降っていた。ナメクジが彼の目の前に現れたらいいと思った。