情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2018年1月5日 その2

 NHKのドラマ「女子的生活」の1話を見た。主人公はアパレル通販サイトの会社で働く24,5歳のトランスジェンダーの男性、みき。女性として生活しているが、戸籍や肉体は男のままのようだ。みきの性的指向は女性。肉体だけ見ればヘテロだが、みきは女性として、女性を愛している。
 そういうことはよくある話で何も珍しくない設定だ。私はまだトランスジェンダーの人と知り合ったことはないが、ツイッターでは見かけるし打ち明けられていないだけで周囲に居るのかもしれない。
 LGBTが大きく取り上げられた2017年だったが、2018年の始めにこのように既存の愛の在り方を更新するようなテーマを持つ作品が放映されることは喜ばしいことだ。私の父は、女装?オカマ?つまらんっと言ってテレビから離れてしまったけれど、母は興味を持って見ていたようだ。
 

 みきは女子的生活というタイトルでブログ?を日々更新している。可愛らしい物を食べて、綺麗な洋服を着て、美意識高い朝。会社ではみきがトランスジェンダーであることを受け入れられている。
 みきの家に高校の頃の同級生、後藤が居候しに来る。借金に負われてお金がないらしい。後藤はみきが女性として生活していることを知らずに驚くが、みきの為ならなんでもやると言って家に泊めてもらう。
 みきの同僚、その友人と後藤の同僚を集めて合コンを開く。みきのお目当てはもちろん女性。そこで出会ったオーガニック系のナチュラルで自然な暮らしを大切にするセレクトショップのかおりと秘密のゲームを通して親しくなる。合コンの後にホテルへ。
 だが、二人は付き合うわけではなく一晩限りの遊びを楽しんだだけであった。後藤がそれを疑問に持つと、みきは「付き合う相手とやる相手が同じひと?」「年を取ったらきもい女装になる。若い今だけ」「単発でもありがたいの」と声を強くして言う。

 

 まず、性についてリアルで驚いた。いろんな人がいると思うが、自分の売りを理解しつつ相手を品定めし、目の前の刺激的なものを面白がって欲する人が確かに存在する。みきはそういう女性と仲良くなることで一晩の宝物を得る。見た目は綺麗なお姉さんなのに体は男、普通のセックスに飽きた女には刺激的だ。そのことをみきは分かっているのだと思う。そういうポジションに収まることで、自分の欲求のうわべだけでも満たそうとするみきの姿が痛々しく思えた。また、かおりも彼氏がいるらしいが合コンに出かけたり、みきとホテルで寝たり、底の抜けなコップみたいな人だと思う。自分を肯定してくれる誰かを求め続けているのではないだろうか。って、これは続きを見ないと言い過ぎてる可能性もあるけど。
 ホテルから抜け出して「宙ぶらりん」「人生のお手本になる人もいない」「これからどう生きよう」と鏡に向かって呟いたみきは、決してトランスジェンダーの人だけでなく多くの多数派から外れた人の言葉だと感じた。少なくても私も同じように思う。
 ドラマや映画、小説を楽しむ理由は多くあるけれど、私はひとりじゃないんだと感じられることもひとつにあると思う。この「女子的生活」ではみきと同じような人に勇気を与えるかもしれないし、失敗するかもしれない。それはまだ1話を観ただけでは分からない。でも、みきのような存在がいるということにスポットライトが当てられたことに羨ましいと思った。
 私も主人公になってみんなに知られたいって思ったんだよね。誰も私と同じような人がいない。似たような人に出会ったことがない。敢えて名前を付けるならシスヘテロのマゾヒストになるのだろうけど、そんなジャンルの枠からはみ出している私がいる。
 きっと私だけじゃなくて、みきだってそうだ。ジャンルの枠からはみ出している。誰だって「普通」から追い出されて自分はどんな人間なんだろう、どうやって生きよう、誰が自分を理解してくれるのだろうって不安なんだと思う。そういうところに「女子的生活」は挑戦してくれる予感がしたドラマであった。
 ちょっとテンポが悪いのが傷だけど。テーマが良いから、制作陣がもう少しドラマとしての完成度をあげられると視聴者が増えると思う。