情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2017年12月1日 その1

 男の目の前に座り、目を閉じる。あたかも神聖な儀式が執り行われるかのように二人は心を鎮めて呼吸をあわせる。畳を擦れる縄の音が私の魂を震わせる。今、ここで私の罪が裁かれる。彼の意思のままに私は痛めつけられ、殺される。その覚悟を決めた者だけが、男の前に座れる。私は生まれてから今日までの時間を振り返り、お別れを告げる。瞳から涙が流れた。膝に置かれた私の手を掴み、私の腰に回す。手首が折れそうな力だ。抗う意思を捩じ伏せる力だ。対面して座っていたときには遠く、遠くに感じていた男の体が私の顔に触れ、手に触れ、全身を包む。私たちははるか遠くの星で生まれたの。出会って話して目を合わせて愛しても、その距離は縮まらず、遂にこうして体を縛り付けることに決めたのです。と、そんなおとぎ話が頭を過る。男は私の両手を麻縄で結んだ。私が両腕を使えないようにするため、その縄を右肩の胸の上辺りから左肩の方へと一周させる。男の頬と私の頬はぴったりとくっついて、汗と吐息が混じる。ただ罰を受ける準備をしているのではない。彼の罪をも私の血液に染み込ませて、融合させる。そのための後手縛りである。男は素早くまた胸の上を一周させ、位置を固定する。手首と腕を縛られるだけでもう抵抗は難しい。さらに胸の下にも二周縄を這わせて、完璧に私の腕の自由を奪った。

 

責め手が一瞬、私を責めさせられているように見えるときがある。主従の逆転が起こる。また、相手の顔が未だ嘗て見たこともないくらいの狂気に満ちた表情をしているときがある。なんて駄目な顔しているのだろうと思う。こんな顔は誰にも見せてはいけない、そう私以外に!やっと、彼は心を開いてくれたと許されたような、天に昇る気持ちになる。この瞬間を待ち焦がれている。

 

私にとってSMはあくまで手段であって目的ではない。脳が壊れているので痛みを快楽に変換できるけれど、痛ければいいってものでもない。愛と憎悪と恐怖と恍惚が、そして死が私に降り注がれていなければ楽しくない。満たされない。

 

だから私は苦しかったのだ。身が千切れるくらい、肉片が飛び散るくらい、ずたずたにされた。私たち、一緒に死んだ仲じゃないの?なんで他の人を縛るの?そんな軽い気持ちで縛るなら、体を重ねるなら、私はいらない。何もいらない!

 

“緊縛欲”“SM欲”を恋愛とは別ものとして切り離せるってどういうこと?私に向けたそれを他の人にも見せてるの?違うの?私も他の人と同じように扱われているの?何が違うの?同じじゃないの?毎晩のようにいろんな人と「死んでる」人と私は「死にたくない」よ。

 

縛られているとき、今日もこれで私の命はおしまいだと思うとき、思い浮かぶのは彼の顔の向こう側にいる女や家庭のことで、あれ?おかしいや、私どうしてこんな人に抱かれているんだっけ?と思えば思うほど惨めで、私ひとりぼっちになっていく。私男と一緒にいるのにひとりになっていく。崖から真っ暗闇へ突き落とされて心がバラバラになって絶望の中で怒鳴り声で叫んで叫んで叫んで叫んでも俺がお前を理解して受け止めてやるなんて笑うことさえできない涙も枯れた虚無に苛まれて、こんな臨死体験つまらない。

 

絶望と快楽が初体験のときから常にワンセットで提供されるから私の体は馬鹿になって絶望って気持ち良いんだフーンって覚えちゃってそれが無いと物足りないの。つらいの。なんでこんな女になっちゃったかなあ。何を間違えたのかなあ。ただの腐女子だったのになあ。おかしいなあ。

 

なーんて、言うのは全部フィクションでだんごちゃんはいちゃらぶセックスが好きだよ♡