情死

Would you cry if I died Would you remember my face?

2015年9月3日 その3

「ねえ、きみ、無意味とは人生の本質なんだよ。それはいたるところで、つねにわれわれにつきまとっている。残虐行為、血腥い戦闘、最悪の不幸といった、だれもそれを見たくないところにさえも無意味は存在する。これほど悲劇的な状況のなかでも無意味を認め、それをその名で呼ぶには、しばしば勇気を要する。しかし大切なのは、それを認めることだけではなく、それを、つまり無意味を愛さなくてはならないということだよ。むいみを愛するすべを学ばなくてはならないということだよ」

ミラン・クンデラ『無意味の祝祭』河出書房新社 2015・4)

 

 

アランがへそに性的魅力を感じることについて瞑想するところから始まる。次にダンドロがラモンに対して「癌になった」と嘘をつく。そしてスターリンの逸話が始まる。小説の冒頭を紹介するだけでも分かると思うが、この作品、小説が担うべき義務(と我々が思い込んでいる)、メッセージ性やテーマについては全く感じない。登場人物たちの下らない行動と言葉を描いている。とてもシュールで面白いのだが、ふんわりとした流れに読者を選ぶだろうなと感じる。フランス映画ってこういう雰囲気だよなあ。タイトルにもあるように、無意味にこだわった作品。個人的に思うこと、邦作家の現代小説はカッコいい物語を書いてやる!感動しやがれ!という意気込みは強く感じるのだが、文章がとにかく格好悪くてつまらない作品が多い。だからこのような無意味なのに面白い作品というのは作者の技巧が試されるよなあと思った。くだらない台詞からハッとさせられる台詞もあって良い。軽くニヒルな笑いを愉しみたい方にお薦め。無意味の価値、まざまざと魅せられた。